抄録
生物は、内的プログラムや環境変化に応じて、遺伝子の発現を制御している。遺伝子発現の第一段階である転写の制御は、発現調節においてとりわけ重要な過程であり、真正細菌では、シグマ因子の使いわけが遺伝子の発現パターンを規定している。酸素発生型の光合成を行うシアノバクテリアSynechocystis sp. PCC 6803においては、sigAからsigIまでの9種類のシグマ因子が同定されているが、これらに付随する機能については、まだ不明な点が多い。
今回我々は、それぞれのシグマ因子によって制御される遺伝子を探索するために、グループ2シグマ因子に属するsigB、sigC、sigDの遺伝子破壊株を作成し、DNAマイクロアレイ解析を行った。その結果、sigB、sigC、sigDの遺伝子破壊株すべてにおいて、psaB、psaJ、psbDなどの光化学系IとIIの構成要素をコードする遺伝子群の発現が低下していた。また、窒素同化に関連した制御系や酵素群に注目すると、sigB破壊株ではntcAが、sigD破壊株ではglnNが特異的に減少していた。今回の発表では、それぞれのシグマ因子欠損により転写産物量が影響を受ける遺伝子群の詳細と、そこから想定される各シグマ因子の機能について考察する。また、現在グループ3シグマ因子の遺伝子破壊株を用いたDNAマイクロアレイ解析も進めており、こちらの結果も併せて報告したい。