抄録
アブシジン酸(ABA)は種子登熟・休眠と発芽・乾燥ストレス等に対する植物の適応反応のシグナル物質である。演者はABAの種子における代謝と応答性のメカニズムを理解するためにシロイヌナズナを用いて遺伝学的研究を行ってきた。ジベレリン生合成を阻害するウニコナゾールを用いてウニコナゾール耐性発芽を示す突然変異株の選抜を行い、ABA非感受性のabi3変異株を分離した。abi3変異株種子は種子登熟後期に顕著な異常を示し、その種子は耐乾燥性の獲得・種子貯蔵物質の蓄積・種子休眠の誘導が正常に起こらなかった。この変異株の解析から、種子登熟後期の事象は継続的な発生プログラムの中に割り込まれた形でプログラムされていること、ABI3は種子登熟後期の生物時間を規定するヘテロクロニック遺伝子としての機能を有する事を提唱した。この仮説を検証するためにランダムに収集した種子登熟期と発芽期の分子マーカーの発現解析から、一群の遺伝子発現を活性化する事と共に別の遺伝子群の発現を抑制する二面的な機能を示した。一方、種子におけるABA代謝調節の研究からABAの主要な代謝酵素であるABA 8’水酸化酵素がCYP707A遺伝子にコードされていること、また、シロイヌナズナの4つのCYP707A遺伝子の中でCYP707A2は種子発芽に先立つABAの不活性化に重要である事が明らかとなった。