抄録
単子葉類植物の中でイネと並んで自殖性二倍体のオオムギは遺伝学的研究が進んでいる.一方で,オオムギのゲノムサイズは約5,000Mbpと大きいため,ESTを中心として解析が進められ,2005年11月現在,約42万のオオムEST配列が公的データベースに公開されている.オオムギでは米国および我が国でそれぞれ一つずつのBACライブラリーが開発されており,米国を中心にゲノムの遺伝子領域を推定する作業が進められている.また,我が国ではオオムギの完全長解析が大規模に行われている.これらの解析に基づいて,今後オオムギでは部分的なゲノムの配列解析が進むものと予想される.しかし,オオムギの形質転換は未だ容易でなく,単離した遺伝子の確認や遺伝子ノックアウトを作出することも困難である.岡山大学では非冗長の3’ESTから作製した3,000のESTマーカーを遺伝地図上に位置づけると共に,コムギにオオムギの染色体断片を導入した系統群を用いてESTマーカーの染色体上の物理的な位置を決定する作業も進んでいる.オオムギでは農業的に重要な形質の単離と選抜技術の開発が重要な研究テーマとなっており,岡山大学では染色体組換置換系統を開発して,農業的に重要な遺伝子を大規模に単離する準備を進めている.このような作業を効率よく行うためにはゲノム全体を網羅したマーカー選抜が必要であり,現在そのシステム開発を精力的に進めている.