抄録
作物改良のためにはその栽培起源や来歴を詳しく知ることが重要である。オオムギにおいてカギとなる形質として小穂非脱落性、六条性、裸性、春まき性等があげられる。成熟種子の非脱落化は収穫能率向上をもたらし、六条性は粒数を格段に増加させ、裸性は穀粒の食用を容易にし、春まき性獲得は栽培地域の拡大に役立った。これら栽培化関連形質の遺伝子の多くはコードする遺伝子産物が不明であるが、単純な1因子遺伝をすることが前世紀の優れた研究によって明らかにされ、連鎖地図上に位置づけられているため、今日そのポジショナルクローニングはひとつのチャレンジといえよう。実験のための重要な共通的リソースとしては先ず数千のオオムギESTが連鎖地図上にマップされており、この情報を利用すれば任意の交配集団でも目的遺伝子の連鎖地図を迅速に作製することが出来る。また数十万のオオムギEST配列が公開されており、オオムギとイネとのゲノム相同性を利用して遺伝子に強連鎖するマーカーを高密度化する事ができる。一方AFLPマーカー開発は事前の配列情報を必要とせず、ESTマーカーを補完する事が出来る。BACライブラリーは3つのオオムギ品種で作製されていて、目的遺伝子を挟み込む物理地図の作製に役立つ。対象形質を正確に評価して分離個体の遺伝子型を正確にスコアすることがクローニングの成否の決め手になる。シンポジウムでは小穂非脱落化遺伝子と六条性遺伝子の成果を報告したい。