抄録
私たちは脱分化・器官再生過程の分子機構の解明を目標に、シロイヌナズナの温度感受性突然変異体を利用した分子遺伝学的解析を行っている。変異体の一つsrd2については、これまでの研究を通して、脱分化および分裂組織の新形成に関して強い温度感受性を示すこと、責任遺伝子SRD2がsnRNA転写活性化を担っていることを明らかにし、snRNAレベルの動的制御の重要性を示してきた。
rid1は胚軸からの不定根形成を指標に単離した温度感受性変異体である。器官再生に関する表現型の詳細な解析の結果、胚軸の脱分化や不定芽形成および根の発達の強い温度感受性など、rid1とsrd2が多くの特徴を共有していることが分かった。精密染色体マッピングによってrid1変異の位置を限定し、当該領域のrid1ゲノムの塩基配列を解析したところ、酵母のPrp22とよく似たDEAH型RNAヘリカーゼをコードするAt1g26370に1塩基置換が見出された。At1g26370のT-DNA挿入変異とrid1とのアレリズムから、この遺伝子がRID1であると判断された。Prp22はmRNA前駆体スプライシングへの関与が知られており、RID1もスプライシングにはたらくものと考えられる。以上の結果は、SRD2に依存したsnRNAレベル上昇の脱分化・器官再生における役割がスプライシング活性の増大にあることを示唆している。