抄録
シロイヌナズナのTEBICHI (TEB) 遺伝子は、動物でDNA損傷の修復もしくは損傷に対する応答反応に関わると考えられているMUS308/POLQタンパク質のホモログをコードし、teb変異株はメリステムの構造や器官の形態に異常を来す。teb変異株ではDNA二本鎖切断に応答する遺伝子の発現が上昇し、また、細胞周期のG2/M期に発現するcyclinB1::GUSを発現する細胞がメリステムにおいて増加することが明らかになっている。この、tebにおけるcyclinB1::GUSの上昇を、DNA複製チェックポイント機構にかかわるATRの変異が抑制したことから、tebではDNA複製が異常であり、ATR依存的DNA複製チェックポイントが活性化していることが示された。しかしながら面白いことに、atr変異はteb変異株の形態の表現型を亢進した。また、teb atr二重変異株では針状の葉の形成が観察された。葉切片や表皮細胞の観察、さらに背軸側で発現するFILAMENTOUS FLOWER遺伝子の発現解析より、tebもしくはteb atrでは葉の背軸側化が起きていることが示された。これらの結果より、DNA複製中のTEBの機能が、背軸側の分化を抑える、もしくは向軸側の分化を促進する機構に関わると考えられた。葉の向背軸形成に関わる遺伝子との遺伝学的な解析により、TEBの機能と向背軸の関係について解析を進めており、その結果を併せて報告したい。