抄録
シロイヌナズナなどの無胚乳種子では子葉は種子の中で栄養貯蔵組織として機能し、発芽後に光合成組織となる。子葉と本葉はその形成過程が異なるだけでなく葉緑体の形成過程も異なっていると思われる。シロイヌナズナ変異体abc2 は子葉のみが白化し、本葉は正常に緑化する。この変異体の子葉の色素体は、光照射下で生育させた植物体では膜構造が未発達で野生型とは顕著に異なる葉緑体が形成されるが、暗所で生育させた植物体では野生型同様に正常なエチオプラストを形成する。ABC2 遺伝子は子葉において光によって発現が誘導されており、ABC2タンパク質は葉緑体の膜上に局在していた。ABC2タンパク質は187アミノ酸からなるタンパク質であり、C末端側109アミノ酸は他の高等植物においても高度に保存されていた。この領域は大腸菌のシャペロンタンパク質DnaJの活性部部位のZnフィンガーモチーフを含んでいた。ABC2タンパク質はインシュリンを基質としたジスルフィド結合の酸化還元活性と、還元状態としたRNaseを基質としたRNase Refolding活性を有していた。これらのことより、ABC2タンパク質は子葉の葉緑体形成に必須な分子シャペロン (Protein-disulfide isomerase)である事が示された。