抄録
PSKは,植物細胞培養液中に見出された5アミノ酸分泌型ペプチドであり,in vitroでは細胞増殖促進や仮道管分化促進,不定胚形成促進などの生理活性を示す.種々の生理学的解析から,PSKはmitogenや分化因子として特異的に機能するというよりはむしろ,個々の細胞における基本的な生理的ポテンシャルを高め,多面的な生理効果を示している可能性が高い.PSK前駆体遺伝子は,シロイヌナズナに5種類存在しており,植物体全体でかなりのレベルで発現していることから,植物個体の成長過程にも何らかの役割を担っていると考えられる.我々は,これまでにニンジン培養細胞をモデルとした解析により,細胞膜に局在するLRR-RKであるPSKR1がPSK受容体であることを明らかにしてきた.また,そのシロイヌナズナにおけるオルソログAtPSKR1の破壊株では,基本的な生活環は全うされるが,成熟組織におけるカルス形成能の低下や,個々の細胞の老化の促進が観察されることを見出した.シロイヌナズナには,AtPSKR1のホモログがさらに2種類存在するが,それらも重複してPSK情報伝達に関与している可能性が考えられる.今回我々はこれらホモログについて,AtPSKR1との相補性,発現パターン,PSK結合活性,遺伝子多重破壊株の形質などについて解析したので報告する.