抄録
ホウ素は高等植物の微量必須元素であるがその生理機能は完全には理解されていない。我々はこれまで、植物細胞中のホウ素は細胞壁に局在し、ラムノガラクツロナンII領域とのホウ酸ジエステル形成を通じてペクチン質多糖を架橋していることを明らかにしてきた。一方ホウ素欠乏による様々な障害や細胞死の発生メカニズムは未だ明らかでない。そこで本研究ではタバコ培養細胞を用い、ホウ素欠乏による細胞死の発生過程について解析した。
3日齢のタバコ培養細胞BY-2をホウ素欠除培地で培養すると、処理開始24時間前後からヨウ化プロピジウムで染色される死細胞が増加し始め、72時間で50%の細胞が死んだ。我々はこれまでに低ホウ素培地に馴化させた細胞で抗酸化酵素遺伝子の発現量が増加することを見出している。このことはホウ素欠乏ストレスで酸化障害が発生することを示唆する。そこでホウ素欠除処理細胞の過酸化脂質含量について検討した結果、死細胞の増加に先立ち欠除処理18時間から過酸化脂質の蓄積が認められた。また抗酸化物質ブチルヒドロキシアニソールを添加すると細胞死が抑制された。これらの結果は、ホウ素欠乏ストレスで実際に酸化障害が発生し、それが直接の原因となって細胞が死に至ることを示している。今後はホウ素欠乏による細胞壁の構造異常が活性酸素を発生させるメカニズムについて検討する予定である。