抄録
全トランス-カロテノイドには、種々の対称性を持つ一重項励起エネルギー準位がある。光合成系でのエネルギー伝達は、これらのエネルギー準位での内部転換と振動緩和により制御されているが、本研究では光学活性1Bu+状態での振動緩和を対象とした。1Bu+状態は、短鎖、長鎖、いずれのカロテノイドのエネルギー伝達にも携わる、重要なエネルギー準位である。本実験では共役二重結合数がn = 13の1Bu+状態の寿命が最も短いスピリロキサンチンを対象にして、約40 fsのパルス幅を持つフェムト秒レーザーを用いて時間分解吸収スペクトルを測定した。その結果、ごく初期の時間領域において、2種類の異なる時間変化をする誘導発光ピークが存在し、高エネルギー側のものが先に消えることを観測したが、これは1Bu+(1)から1Bu+(0)への振動緩和に由来するものと考えられる。1Bu+(1)から1Bu+(0)への振動緩和は、過去に研究された2Ag-状態の振動緩和と比較すると非常に早く、高エネルギー側の1Bu+ (1)成分が200 fs以内にほぼ消えることが観測された。しかし、この振動緩和は、内部転換の速さ(~10 fs)と比較すると非常に遅いので、数種類の振動準位から、内部転換とバクテリオクロロフィルへのエネルギー伝達が、競争して起こっていることが予測される。