抄録
繊維状非酸素発生型光合成細菌(Filamentous anoxygenic phototroph: FAP)は、16S rRNAに基づく系統樹では光合成微生物の中で最も分岐の古い生物であり、光合成の進化を研究する上で有用である。温泉噴出口付近で緑色や赤橙色の微生物マットを形成して棲息し、キノン型の光化学反応中心を持つ。同様にキノン型反応中心を持つ紅色細菌では、反応中心はチトクロムbc複合体・可溶性チトクロムと共に循環的電子伝達系を形成している。一方FAPではチトクロムbc複合体や可溶性チトクロムは、ゲノムからも生化学的にも同定されておらず、FAPの光合成電子伝達系については不明な点が多い。今回我々はR. castenholzii由来の銅蛋白質オーラシアニンの大腸菌を用いた大量精製に成功したのでその性質について報告する。さらに我々は、R. castenholziiの生細胞および膜標品を用いた研究によりキノンアナログが反応中心の再還元を阻害することから、FAPにおいても循環的電子伝達系が存在すると考えている。今後はオーラシアニンの解析とともに、FAPの電子伝達系におけるキノール酸化還元酵素の同定も進めていきたい。