抄録
熱帯雨林の林床草本には特殊な葉を持つ物が多い。Schismatoglottis calyptrataというサトイモ科の植物の葉には、クロロフィルが欠損しているわけでもないのに、部分的に斑が入っている。葉の横断切片を作って調べてみると、斑の原因は表皮細胞と柵状細胞の接着が弱いために、空隙ができ光が乱反射するためだと分かる。このような構造斑入り葉は、日本産草本にもユキノシタなど、いくつかの植物で同様の事例が知られている。このSchismatoglottis calyptrataとユキノシタを材料とし、未だに理解の浅い構造斑入り葉の生態的な意義と発生過程を探ることとした。
構造斑入り葉の斑の部分で、表皮細胞と柵状細胞間の空隙で光が乱反射することから、斑の部分では斑の無い部分に比べ光合成に使える光が少なくなり、炭素固定能が劣ることが推定される。事実、斑入りの葉は斑の入らない葉に比べて光合成速度が劣っていた。
だが、斑が入るものと全く入らないものが、全く同じ生育環境下でかなりの確率で共存していることを考えると、斑入りの葉が一方的に不利ということは考えづらい。何がこうした構造斑入りの形質を進化させたのだろうか。現在、斑の部分と斑の無い部分の間で、クロロフィルの質や量の違い等について解析しており、その結果について、斑構造が発生過程のどのステージでどういった理由で現われるのか、といった点と合わせ報告する。