抄録
トレハロースは微生物においては乾燥ストレスの防御物質として機能するが,植物では蓄積が極微量であるため,異なる機能を有すると考えられる.植物におけるトレハロース生合成は,Tre6P合成酵素(TPS),Tre6P脱リン酸酵素(TPP)による二段階の反応で行われる.我々はこれまでにイネ幼苗において発現するTPP遺伝子OsTPP1を単離し,その発現が低温処理(12°C)によって一過的に誘導されること及び低温により細胞内総TPP活性及びトレハロース蓄積量が一過的に上昇することを示している(Plant Mol. Biol. 58: 751-762, 2005).
今回,イネにおけるOsTPP1の働きを解析する為に,ユビキチンプロモーターの下流にOsTPP1を接続させたコンストラクトをイネに形質転換させたOsTPP1過剰発現体を作出した.過剰発現体は稔実の低下と穂が伸長する形態異常が観察された.可溶糖の解析の結果,OsTPP1過剰発現体ではトレハロース含量が約3-6倍に増加していた.またこの時グルコース及びフルクトースが野生株と比較して約3-15倍蓄積していることを明らかにした.さらに,興味あることにOsTPP1過剰発現体は根の伸長においてABA高感受性を示した.これらの結果より,OsTPP1はトレハロースの蓄積またはその前駆体(Tre6P)の減少を介して,糖代謝及びABAシグナル伝達系に関与することが示唆された.