抄録
単子葉水生植物ヒルムシロ(Potamogeton distinctus A. Benn.)は、地下に殖芽とよばれる越冬繁殖器官を形成する。この殖芽は、陸上植物には見られない非常に強い嫌気耐性を示す。その無酸素条件下でのエネルギー生産の持続は、細胞内に蓄えられたデンプンの分解と、活発なスクロース代謝が関連して生じる糖の供給により支えられていると考えられる。スクロース合成酵素(SuSy)は、低酸素や無酸素ストレスにより発現が高まることが、ヒルムシロだけでなく他の多くの植物でも知られている。そのことから、嫌気耐性におけるSuSyの役割が注目されている。
我々は、ヒルムシロ殖芽から無酸素条件下で発現上昇するSuSy遺伝子(PdSUS1)を単離し、これをタバコBY-2懸濁培養細胞に導入した過剰発現株を作製し、無酸素条件においた細胞の生存率をエバンスブルー染色により評価した。形質転換細胞では、SuSyの活性上昇に応じて、細胞内の糖含量の高まりと、インベルターゼ活性の上昇が見られた。また、SuSyを過剰発現した2つの株では、無酸素条件下での生存率の改善が認められた。このことは、SuSyが植物細胞の嫌気耐性を左右する重要な要因であることを強く示唆するものである。