抄録
Cyanidioschyzon merolae 10Dは核、ミトコンドリア、葉緑体が一個ずつの極めて単純な細胞構造をもつ単細胞性紅藻であり、そのゲノム配列に基づいた解析はC. melaraeが真核細胞の成立時の特徴を多く残す「生きた化石」であることを支持している。我々は、この生物をモデルとした真核細胞の基本的構築に関する研究を進めるため、基盤となる形質転換技術の開発を行っている。
前回我々は、5-フルオロオロト酸(5-FOA)耐性を指標として取得されたURA5.3欠損株(URA5.3遺伝子中のURA3領域frameshift変異株:ウラシル要求性)を受容細胞として用い、相同組換えによる形質転換が可能であることを示した。C. merolaeのURA5.3遺伝子は、オロト酸ホスホリボシル転移酵素(URA5)とオロト酸脱炭酸酵素(URA3)が融合した蛋白質をコードしている。今回、C. merolae URA5.3遺伝子のURA3領域(3’側)を、別の単細胞紅藻Galdieria sulphurariaの対応領域と置換することで、URA3領域での相同組換えを避けるようなマーカー遺伝子を構築した。この融合遺伝子を連結した大腸菌プラスミドによりウラシル要求性の回復を指標とした形質転換実験を行った結果、得られたウラシル非要求株は導入したプラスミドDNAをそのまま保持していることが示された。従って、このプラスミドがC. merolae細胞内で安定に複製されている可能性が示唆された。