抄録
IAA遺伝子族はシロイヌナズナを中心とした研究により、オーキシンのシグナル伝達に関わる遺伝子の中で最も解析が進んでいる。オーキシンのシグナル伝達機構やオーキシンによる形態形成は専らシロイヌナズナなどの双子葉植物で解析が進んでおり、イネなどの単子葉植物ではこれまで殆ど進展が見られなかった。我々はイネのIAA遺伝子に着目し、これらを解明することを目的として研究を行った。全ゲノム配列を対象とした相同性検索からイネには24個のIAA遺伝子が存在することが分かった。これらのうちオーキシンに早期に応答するOsIAA3遺伝子を選び、解析を行った結果、OsIAA3遺伝子はシロイヌナズナのIAA遺伝子とよく似た挙動を示すことが分かった。また、ドミナントネガティブにオーキシンのシグナル伝達を阻害する点変異を導入したOsIAA3(P58L)をステロイドホルモンであるデキサメタゾン(DEX)により過剰に誘導できる形質転換イネ、mOsIAA3-GRを作出し、解析した。その結果、DEX存在下でmOsIAA3-GR形質転換体はシロイヌナズナのドミナントネガティブなiaa突然変異体とよく似た、オーキシン感受性の低下、重力屈性の変化、矮性を示した。イネに特有の表現型としては葉身・葉鞘の比が変化、冠根数(不定根数)の減少、茎幅の低下、節形成の不全、葉原基や中肋の形態異常などが見られた。