抄録
タバコ培養細胞BY-2は、オーキシン(2,4-D; 0.2 mg/l)を含む通常の培地中では活発に分裂増殖し、培養の全期間を通じて小型で未分化な状態にとどまる。一方、オーキシンを除去しサイトカイニン (BA; 1 mg/l) を添加した改変培地中では、BY-2はほとんど分裂・増殖せずに大型化し、アミロプラストを発達させる。その際、細胞増殖開始に先立つ一過的なオルガネラDNA合成の活性化は抑制され、デンプン合成に関与する酵素遺伝子の発現は活性化される。我々はさらに、1) 改変培地における細胞分化に伴ってタンパク質や多糖類の分泌活性が増大し、細胞あたりのゴルジ体数も増加するとともに、特異的なタンパク質が培地中に分泌されるようになること、2) 改変培地では細胞相互の剥離が生じやすくなり、cell clusterを構成する細胞数が減少すること、3) 細胞が短命化し、培養4日目頃から細胞死が頻発すること、などを明らかにした。このような改変培地におけるBY-2細胞の挙動(増殖抑制、体積増大、アミロプラストの発達、分泌活性増大、細胞剥離、細胞死)は、少なくとも部分的には根冠組織における細胞の挙動に類似しているように見える。現在、特に分泌活性と細胞死の様相に注目して、改変培地におけるBY-2細胞の挙動と根冠における細胞の挙動を比較し、両者の類似性について検討している。