抄録
高等陸上植物の成熟葉緑体において植物の成育に伴い、チラコイド膜に微細構造の変化が観察されることは、昨年の本大会で既に報告した。同様のチラコイド膜の構造的変化が、シロイヌナズナの成育光量を変化させることにより、可逆的に起こる事を観察した。成育の光条件には、50-60(++)、20-30(+)、110-130(+++)μmol m-2sec-1の3段階を設けた。(++)にて4週間成育した栄養成長期の葉(RI)の葉緑体は明確なグラナ、ストロマ構造をもつ(L型)。この植物を(+)の減光条件下に移すと、1-2週間でチラコイド膜の構造変化が観察されるが、再び(++)に戻すと約1週間でL型に戻った。また、(++)にて8-10週間成育した生殖成長期のロゼット新葉(RII)の葉緑体はストロマを欠いたカール状グラナを主成分とするチラコイド構造をとる(C型)。この植物を(+++)の強光下に移動すると、3-4日でL型への変化が観察され、(++)に戻す事でC型に戻った。このようなチラコイド膜の光応答的変化は、クロロフィルa/b比の変化を伴う。この結果は、成熟葉緑体がチラコイド膜の構造変化を伴う機能の異なった2つの形態を持ち得る可塑性に富んだオルガネラであることを示唆するものであると考える。