抄録
これまでに我々は、Agrobacterium rhizogenesのRi プラスミド由来のアグロピン合成酵素遺伝子 (Ri-ags) のプロモーターが、タバコ(Nicotiana tabacum L.)植物体において根組織特異的に発現し、葉及び茎では傷害応答性を持つことを示した。その傷害誘導には新規タンパク質合成が不要で、傷害後5分以内にmRNAが増加することから一次応答と考えられた。タバコにおけるこの傷害応答の信号伝達経路はほとんど未解明であるため、シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana L.)を用いて遺伝学的に解析しようと考えた。そこで本研究では、まずRi-agsプロモーター(Ri-Pags)とGUSとの融合遺伝子(Ri-Pags-GUS)をシロイヌナズナに導入し、形質転換体シロイヌナズナにおけるRi-Pagsの発現特性を調査した。
今回、我々はRi-Pags-GUS融合遺伝子をFloral-dip法によりシロイヌナズナに導入し、T2世代植物体におけるRi-agsプロモーターの発現特性をGUS活性測定及び組織化学染色によって調査した。その結果、タバコにおける発現と同様に根で高い活性を示したが、葉では傷害応答を示さなかった。また、組織化学染色の結果もタバコと異なっていた。つまり、Ri-agsプロモーターは、シロイヌナズナではタバコとは異なった発現制御を受けると考えられる。したがって、シロイヌナズナを用いたRi-agsプロモーターの傷害応答信号伝達経路の遺伝学的解析は不可能である。