抄録
真性抵抗性遺伝子(R)を持つ植物細胞は、多くの場合、対応する病原菌特異的に活性酸素生成を伴う過敏感反応(HR)細胞死を誘導するが、その分子機構には不明な点が多い。キチンエリシターはnMオーダーで活性酸素生成等の防御反応を誘導するが、細胞死はほとんど誘導しない。そこで我々は、イネのキチンエリシター受容体遺伝子CEBiPの細胞外領域と、受容体型プロテインキナーゼをコードするイネ白葉枯病R遺伝子Xa21の細胞内領域を連結したキメラ遺伝子(CRXa)を作製し、キチンオリゴ糖(GN7)によってXA21下流のシグナル伝達経路を活性化する実験系の開発を試みた。CRXaを発現するイネカルスをGN7で処理し、細胞死誘導ならびに活性酸素生成を定量したところ、いずれもコントロールカルスより有意に増加した。一方、リポ多糖応答性は変化しなかった。また、XA21の自己リン酸化領域を欠くキメラタンパク質を発現するカルスではGN7応答性は変化しなかった。以上の結果から、GN7シグナルがCRXAによって特異的に細胞死誘導シグナルに変換されると考えられた。次に、このCRXa発現カルスを用いて活性窒素(NO、ONOO)生成と細胞死誘導の関係を解析した。GN7処理によって両活性窒素種の生成量はコントロールカルスより増加したが、消去剤を用いた実験結果から、XA21を介したHR細胞死誘導にはNOが関与することが示唆された。