抄録
ニコチアナミン(NA)は調べられた限りすべての高等植物に含まれるアミノ酸で、植物体内での金属移行に重要な役割を果たしている。またホ乳動物においてNAは、血圧降下作用を示す。我々は、主食のNA含量を高めれば日常の食生活において高血圧症予防ができると考え、高機能性食品としてコメのNA含量を高めることを目指した。
イネの可食部にあたる種子内胚乳で強い発現を誘導する、イネ種子貯蔵タンパク質グルテリン遺伝子のプロモーターpGluB-1下で、オオムギのNA合成酵素遺伝子HvNAS1を発現させた。また、イネへの遺伝子導入用ベクターとして、遺伝子導入確認に用いた抗生物質耐性遺伝子を形質転換後の植物体から除去できる、マーカーフリーベクターpBIMFNを用いた。形質転換体イネT1世代22系統について、HPLCを用いて種子中NA含量を測定し、含量が高い3系統を選抜した。これらの系統ではT4世代でもNA含量は非形質転換体の4倍以上であったことから、NA含量が高いという形質が保持されていると確認された。さらに本研究では作出したNA高蓄積米を、閉花性受粉突然変異体と交配させ、環境中に花粉が拡散しないイネを選抜した。このイネの種子中のNA含量は非形質転換体の約2倍であった。このように本研究では血圧降下作用をもつNAを種子中に多く蓄積し、かつ、社会に受け入れられやすい遺伝子組み換え作物の作出に成功した。