抄録
種子の形態形成は植物体の形態形成の中で最も重要な発達段階の一つである.シロイヌナズナ種子の形態形成の分子機構を解明するため,CRES-T法により転写制御因子の機能を抑制させた変異体のライブラリーから,種子の形態に異常を示すものを選抜した.その結果,植物特異的な転写因子ファミリーの一つであるNAC転写因子CR245が種子の形態形成に関与することを突き止めた.しかしながら,CR245のT-DNAタグラインの種子の形態は正常であったため,機能重複する因子の存在が示唆された.公開されているアレイデータをもとにCR245と器官別発現プロファイルが最も類似する因子を選び,その中で相同性が最も高いNAC転写因子CR248に注目した.CR245とCR248の両T-DNAタグラインより作製した二重変異体の種子の形態には異常が認められた.cr245cr248二重変異体の胚の多くはtorpedo期に成長を停止する.Torpedo期の成長停止を回避した胚は形態異常を起こしていた.興味深いことに,この胚発生異常は雌性配偶体側の異常による可能性がある.CR245とCR248は共に核に局在し,それぞれタンパク質のC末端領域に機能的な転写活性化ドメインを持つ.これらのことから,CR245とCR248は機能重複しながら,種子の形態形成を制御していると考えられる.