抄録
イールディン(yieldin; YLD)は、細胞壁の臨界降伏圧(y)を調節するタンパク質として、ミトリササゲ細胞壁より2000年に単離・精製されたが、その作用機構は未だ明らかではない。その理由のひとつにYLDのリガンドが解明されていないことが挙げられる。
これまでにYLDがclass III キチナーゼやコンカナバリンBのホモログであり、分子内部に糖鎖結合部位が保存されていることが明らかになっている。そこで中里はYLDにも糖鎖結合活性があると考え、細壁構成多糖を対象にYLDリガンドを探索してきたが、はっきりした結果は得られなかった。そこで今一度ウサギ赤血球凝集 (HA)試験を行ってYLDの糖鎖結合性を検討した。
無処理のウサギ赤血球に対しては、以前の報告と同じくYLDはHA活性を示さなかった。ところがトリプシン処理を行なったウサギ赤血球を用いたところ、YLDのHA活性が観察された。HA活性はYLDと赤血球表面の糖鎖との結合に基づくと考えられるため、この結果はYLDに糖鎖結合性があり、レクチンの一種である可能性を示している。またYLDのHA活性は酸性条件下で強く観察された。酸性条件下でyを低下させるという、細胞壁内におけるYLDの作用を考慮すると、YLDの糖鎖結合性がy調節機構に重要な役割を持つ可能性がある。