抄録
AAL毒素はトマトアルターナリア茎枯病菌の病原性因子であり,宿主トマトに細胞死を誘導する.しかし,この毒素により誘導される細胞死のシグナル伝達経路については未知の部分が多い.そこで,AAL毒素および茎枯病菌に感受性であるNicotiana umbraticaとウイルス誘導型のジーンサイレンシング法を用いて,AAL毒素による細胞死に関わる遺伝子を解析した.その結果,エチレン生合成に関わるMAPKKであるMEK2およびエチレンのシグナル伝達に関わるEIN2をノックダウンすると,AAL毒素による細胞死が緩和された.さらに,EIN2の下流の転写因子であるEIN3をノックダウンすることで細胞死が緩和された.これらの結果より,AAL毒素による細胞死には,エチレンの生合成とそのシグナル伝達が必須であると考えられた.一方,EIN2,EIN3のサイレンシングは,INF1エリシターや恒常的活性型変異体であるMEK2DDによる細胞死を抑制しなかった.さらにEIN3の下流の転写因子である各種ERFをノックダウンすることにより,AAL毒素による細胞死に関与するERFを同定した.このERFを一過的に過剰発現させた植物体では細胞死は誘導されなかった.この結果より,AAL毒素による細胞死にはエチレンのシグナル経路が必要であるが十分ではないことが示唆された.