抄録
植物細胞の細胞質分裂は細胞分裂後期に形成されるフラグモプラストの遠心的な発達により行われる。これまでの研究からMAPキナーゼ経路がこのフラグモプラストの発達を制御することが示されている。MAPキナーゼ経路の下流に微小管結合タンパク質であるMAP65が存在することが明らかにされ、その活性を調節し微小管の再構成を通じてフラグモプラストの発達を制御していると考えられている。しかし、フラグモプラストの発達には微小管の制御以外にも多くのしくみが必要であると考えられ、MAPK経路の標的となる分子が他にも存在すると考えられる。本研究では植物細胞質分裂を制御するMAPK経路の標的となり、リン酸化されるタンパク質を網羅的に同定することを試みた。
細胞質分裂を制御するMAPK経路のシロイヌナズナの構成因子の変異株からリン酸化タンパク質を精製し、野生型株との比較を行うことでMAPK経路の標的タンパク質の同定を試みた。その結果、酵母Sec14pと類似のアミノ酸配列を持つPATL2を同定した。PATL2の組み換えタンパク質を精製し、MAPキナーゼによるリン酸化を調べたところ、SEC14ドメイン中の1つのセリン残基のみがリン酸化されることがわかった。Sec14pは細胞膜の代謝や輸送などに関わると考えられていることなどから、MAPキナーゼ経路は微小管の再構成だけでなく、細胞膜の輸送も通して細胞質分裂を制御している可能性が示唆された。