抄録
植物の硝酸吸収・同化系遺伝子は協調的に制御されているため、中間代謝産物である亜硝酸は蓄積されにくいものと考えられている。しかし、嫌気的条件などにより亜硝酸還元が阻害されることにより、一過的に植物体内に亜硝酸の集積が認められる。硝酸吸収・同化系は、代謝産物である還元態窒素により調節を受けることが知られているが、近年亜硝酸をシグナルとした調節機構の存在が示唆された。そこで本研究では、イネ培養細胞を用いて、硝酸の吸収および還元に及ぼす亜硝酸の影響について検討した。
イネ(日本晴)培養細胞の生育は、培地への亜硝酸の添加濃度に依存して大きく低下した。硝酸の吸収および還元に対する亜硝酸の影響を、重窒素トレーサーを用いて調べた結果、亜硝酸を培地に添加後1時間以内に硝酸の還元が阻害され、その効果は培地への亜硝酸添加濃度に依存して大きくなった。一方、重窒素でラベルされた硝酸の細胞への取り込みは、添加した亜硝酸が低濃度の範囲では阻害されたが、高濃度の領域では阻害効果が軽減した。その結果、吸収した硝酸の還元態窒素への同化効率は、亜硝酸の添加濃度に依存して大きく低下した。また、今回供試した濃度範囲においては、亜硝酸は硝酸吸収に比べて硝酸還元をより強く阻害した。現在、硝酸同化系の遺伝子発現に対する亜硝酸の影響を解析中であり、合わせて報告する予定である。