抄録
我々はヒメツリガネゴケを材料として硝酸還元酵素(Nia)及び亜硝酸還元酵素(Nii)の遺伝子発現制御機構の解析を行っており、現在までに、niaおよびniiの発現がアンモニアの同化産物であるグルタミンにより抑制されることを明らかにした。今回は硝酸イオンと亜硝酸イオンによる転写活性化について解析を行った結果を報告する。グルタミン合成酵素の阻害剤MSXを加えてフィードバック阻害を解除した条件下で硝酸イオンの効果を調べたところ、nia、niiは硝酸イオン添加2時間後と8時間以降に発現レベルが高まる二相性の応答を示した。8時間以降の応答は、硝酸イオンだけでなく亜硝酸イオンによっても引き起こされた。二相性の遺伝子発現誘導は以前に報告した硝酸イオン能動輸送体遺伝子(NRT2)のものとよく似ていた。ただし、niiのひとつであるnii1;2の場合は、2時間後の遺伝子発現も亜硝酸イオンによって誘導され、細胞内への亜硝酸イオンの蓄積を防ぐための迅速なnii活性化機構の存在が示唆された。全般的な硝酸イオン、亜硝酸イオンに対する応答が類似しているにも関わらず、nia、nii、NRT2のプロモーター領域に共通の特異的塩基配列を見出すことはできなかった。