抄録
カルジオリピン(CL)は、真正細菌から動植物のミトコンドリアにまで広く存在する特徴的な構造をもったリン脂質である。ミトコンドリアにおいてCLは内膜や外膜と内膜の接触部位に特に多く含まれるといわれている。私たちは真核多細胞生物で初めてCL合成酵素遺伝子CLSを同定し、その遺伝子にT-DNAが挿入されたタグラインclsを解析することで、CLの機能を検討している。
cls/clsは胚発生が遅延するため、親株であるCLS/clsを良好に栽培しないと種子を得ることができない。また、発芽後も根を中心として顕著な生長抑制を呈する。そこで、CLを特異的に含むといわれるミトコンドリアの形態を変異体において観察した。YFPによる可視化では、葉緑体と同程度かそれ以上巨大化したものやくびれを持った長いものが細胞内を動きまわる様子が観察された。また、電子顕微鏡による詳細な観察では、発達したクリステ様の構造をもった巨大なミトコンドリアを確認することができた。このことから、興味深いことに、CLはその存在量の多いクリステの膜構造の維持よりも、分裂・融合などにより支えられるミトコンドリア全体の形態の維持に重要な役割を果たすと推測される。