抄録
高等植物細胞は、主に細胞膜直下に存在する表層微小管と、それにより配向が制御されている細胞壁内のセルロース微繊維により、その形が形成され維持されていると考えられている。しかし、表層微小管によるセルロース微繊維沈着方向の制御機構については、いまだ不明な点が多い。これまでに我々は、タバコ培養細胞BY-2を用いたケミカルジェネティクス的アプローチにより、セルロース微繊維が表層微小管に平行に沈着することを阻害する新規阻害剤cobtorinを得た。本研究では、cobtorinがシロイヌナズナ植物体に及ぼす影響を調べた。その結果、胚軸及び根において、cobtorinは伸長を阻害しかつ細胞が膨れる形質を引き起こした。しかし、胚軸はcobtorinに対し高い感受性を示したが、根はより高い濃度でのみ軽微な形質を示し、感受性が異なることが分かった。また、cobtorinは地上部ではロゼット葉の形成や花序の伸長を阻害し、地下部では根毛や側根の形成を促進した。これらのことから、地上部と地下部では、cobtorinの標的因子の発現、構造ないし機能に差があることが推定された。これらの結果から、cobtorinの標的因子の役割について報告し考察する。