抄録
AtPCaP1はシロイヌナズナで発見された新規のカチオン結合タンパク質である。この分子は膜貫通領域をもたない親水性タンパク質でありながら細胞膜に結合しており,特定の酵素との配列類似性はみられない。さらに,金属や病害ストレスに応答して発現レベルの上昇がみられた。これらの知見からPCaP1は細胞情報伝達に関与している可能性が推察されたが,詳細な生理機能は明らかでない。そこで本研究では,この分子の生理機能解明を目的とした。PCaP1のT-DNA挿入変異株を作製し,この変異株と野生株を用いて金属ストレス処理による表現型の解析を行った。通常の金属イオン組成のMS培地に対して鉄および銅が過剰または欠乏の固体培地を作製し,植物体を播種して2から4週間後に植物体地上部の生重量を測定した。破壊株は,鉄欠乏ストレスには大きな変化を示さなかったが,銅の過剰,欠乏のどちらのストレスに対しても感受性が高くなることが示唆された。さらに,植栽密度を高めた密集ストレスに対する表現型を解析したところ,野生株と破壊株の間に統計的に有意な差が見られた。また,PCaP1プロモーター::GUSを導入した株を作製し,病原菌エリシターであるflg22を与えたところ,塗布部分で顕著なPCaP1発現増大が見られた。以上のことから,AtPCaP1が多面的なストレスへの応答に関与する分子である可能性が示唆された。