抄録
地球温暖化対策の一つとして、植物バイオマスの燃料・工業原料化が注目されている。しかし、穀類に含まれるデンプンを原材料とする現行法は、食糧問題の一因ともなっており、非食用植物に含まれる細胞壁成分(セルロース、ヘミセルロース)を低コストかつ効率的に糖化して活用するための技術革新が求められている。我々は、耐熱性を有した細胞壁糖化酵素群を大量発現する形質転換植物を作出し、これを粉砕・加熱処理することによって、植物が自己分解して糖質を生産する「自己糖化型エネルギー作物」の開発を進めている。本研究では、古細菌(Pyrococcus horikoshii)由来の超耐熱性セルラーゼを大量発現する葉緑体形質転換タバコを作出した。この形質転換タバコの緑葉では、目的酵素がRubisco大サブユニットに次ぐレベル(SDS-PAGE後、CBB染色によってバンドが確認できるレベル)蓄積しており、その酵素活性は風乾させた葉や茎でも安定に保持されることが分かった。さらに、少なくとも寒天培地での栽培では、植物の生育や形態に顕著な異常は認められなかった。以上の結果は、葉緑体が細胞壁糖化酵素を大量生産するバイオリアクターとして有望であることを示している。