抄録
高等植物の液胞は,植物個体の成長と発達に必須なオルガネラで,実に多様な機能を持つ.液胞膜はしばしば丸くスムーズな表面を持つオルガネラとして想定されがちだが,実は内部に非常に複雑な陥入構造(原形質糸)を伴うダイナミックな構造である.私たちは,シロイヌナズナの子葉の表皮細胞で,内外二層に折り畳まれ球状をなし,液胞の内腔に突出した構造bulbを見出し報告した(Saito et al. 2002).その後,bulbの生物学的意義を探るべく,「更なる構造的な証拠」,「連続した液胞膜内における膜タンパク質の選択的濃縮排除の直接的な証明」,「機能の手がかりを得る」,ことを目標に研究を進めてきた.吸水直後の種子や花器官でも広くbulbが観察されるような形質転換ラインを得て,子葉以外の組織でも広くbulbが出現することを見出した.Bulbは組織が急激に伸長する直前に高頻度に観察された.遺伝学的にbulbの出現頻度が異常になるものを探索した.その結果,花茎内皮細胞の液胞膜の形態に異常のある,zig-1/atvti11 とsgr2-1において,bulbの頻度が激減していることを見出した.現在,高圧急速凍結固定による電子顕微鏡観察を進行中で,それについても併せて報告したい.