抄録
光化学系I(PS I)反応中心における室温での励起エネルギー捕集、初期電荷分離のダイナミクスは、1) 多くのクロロフィル(Chl)分子のスペクトルが重なる、2) 各Chl間のエネルギー移動が高速でフェムト秒の時間分解能でも検出できない、3) エネルギー捕集と初期電荷分離が同じ時間スケールで起こるため分離が難しい、といった困難のため未だ完全には解明されていない。極低温では、スペクトルがシャープになりエネルギー移動も劇的に遅くなるため、上記1)、2)の克服が期待できる。我々は、PS Iの励起エネルギー捕集、初期電荷分離のダイナミクスの完全解明を目指し、15 Kにおける超高速時間分解蛍光法による研究を行った。
測定の結果、15 Kでは所謂red Chlへのエネルギー移動速度が室温での数psから30 psへと劇的に遅くなる、690 nm付近の大部分のChlからの蛍光は5 ps程度の非常に高速な時定数で減衰する、室温では見られない300 ps程度の蛍光減衰成分が現れる、ことが明らかとなった。この結果は、極低温ではP700へ5 psでエネルギーを渡すChlグループ、300 psでP700へエネルギーを渡すChlグループ、P700ではなくred Chlへ30 psでエネルギーを渡すChlグループ、に分かれることを示す。講演では、これらのChlグループの分子数比について議論する。