抄録
以前の我々の研究から、マイクロナイフによって水平方向に直径の約半分まで切断されたシロイヌナズナの花茎では、主として髄組織の細胞が切断3日後から細胞分裂を開始し、約7日間で組織を癒合させること、また、マイクロアレイ法を用いた解析から、癒合過程で特異的に発現が上昇する遺伝子群が明らかとなった。切断部ではオーキシン応答性遺伝子(IAA)の発現が切断1日後に上昇していたことから、IAA遺伝子の機能を抑制したmIAA形質転換体を用いて同様の解析を行ったところ、切断直後の細胞分裂は通常通り観察されるが、その後の細胞分裂・伸長が生じず、組織癒合の進行に異常が見られた。次に1-アミノシクロプロパンカルボン酸(ACC)合成酵素と、エチレン誘導性と予想されるAP2型転写因子の一種に注目して解析を行なったところ、2つの遺伝子が癒合過程で類似した発現パターンを示すことが明らかになった。エチレンのシグナル伝達欠損変異体では癒合過程に異常が生じ、さらにCRES-T法によりAP2型転写因子の機能を抑制した形質転換体においても、癒合過程の阻害が認められた。また、NAC型転写因子の一種の機能を抑制した個体においても癒合過程に異常が見られた。以上の結果から、花茎切断によって生じたオーキシン・エチレンのシグナリングが、組織癒合過程に関与する転写因子の発現を制御している可能性が示唆された。