抄録
アブシジン酸(ABA)を介する環境ストレス応答とサリチル酸(SA)を介する病害ストレス応答の間には相互抑制的なクロストークが存在し、ホルモン生合成及び下流のシグナル伝達が制御を受けている。本研究では、作用点の異なる2つのSAR誘導化合物(benzisothiazole, BITおよびbenzothiadiazole, BTH)を用いて、このクロストークにおける各々のホルモン応答性遺伝子の制御について詳細に解析した。SARシグナルにより抑制されるABA応答性遺伝子には、その制御がSAR誘導に必須の因子であるNPR1に依存的なものと非依存的なものが存在することが明らかとなった。一方、SAR誘導においてNPR1依存的に発現するWRKY転写因子に対するABAの影響を解析した結果、WRKY18, WRKY38, WRKY53, WRKY54, WRKY58およびWRKY70は、サリチル酸シグナルの上流を活性化するBITによる誘導ではABA処理により抑制された。しかし、サリチル酸シグナルの下流を活性化するBTHによる誘導では、WRKY18とWRKY53のみがABAにより発現が抑制された。これらの結果から、SAシグナルとABAシグナルのクロストークにおいて各ホルモンの下流で複雑な制御機構が働いていることが示された。