抄録
シロイヌナズナの主要なファイトアレキシンであるカマレキシンの生合成は細菌や菌類などの病原体感染,硝酸銀処理やUV-B照射などの非生物的な刺激といった多様な外的要因によって誘導される.近年,カマレキシン生合成に関与するいくつかのシトクロムP450が同定され,生合成経路が明らかとなってきたが,カマレキシン生合成経路の全貌とその制御機構は未解明である.
本研究では,カマレキシン生合成の制御に関与する新規転写調節因子の探索を目的とし,代謝プロファイリングによってNAC型転写調節因子遺伝子のT-DNA挿入変異系統を対象としてカマレキシン生合成欠損株のスクリーニングを実施した.新規に取得したカマレキシン生合成欠損株においてT-DNA挿入のある転写因子遺伝子は,野生株では病原体感染や硝酸銀等によりその発現が顕著に誘導された.またその転写因子遺伝子のT-DNA挿入変異系統では野生株と比較して硝酸銀処理によるカマレキシン蓄積量が3分の1程度に低下していた.さらに活性酸素の発生を引き起こす除草剤acifluorfen処理によってもカマレキシン蓄積量の減少が認められたことから,この転写調節因子は活性酸素によるカマレキシン生合成の誘導に関与することが示唆された.本発表では,各病原体感染時における転写因子の機能解析やT-DNA挿入変異株でのマイクロアレイ解析の結果についても報告する.