抄録
被子植物が受精を行うためには、花粉管が雌蕊の中を伸長して胚嚢に到達しなければならない。このとき花粉管の伸長方向を制御し、正確に胚嚢まで誘導する様々な仕組みが存在すると考えられるが、その分子的実体の多くは未だに明らかでない。このような中、当研究室のトレニアを用いた研究により、助細胞から分泌され、花粉管を胚嚢に導く役割を果していると考えられるcysteine-rich peptides (CRPs; LURE1, LURE2) が同定された。
本研究は、シロイヌナズナにおける花粉管誘引物質の同定を目的としている。シロイヌナズナで誘引物質を同定できれば、花粉管ガイダンス機構の普遍性について検討できるだけなく、突然変異体を用いた花粉管ガイダンス機構の解析や遺伝子ノックアウト実験など、トレニアとは違った様々な展開が期待される。現在、シロイヌナズナにおいても助細胞で高発現するCRPsが誘引物質候補となりうると考えて解析を進めている。800以上存在するシロイヌナズナのCRPsから、胚嚢形成や花粉管ガイダンスに異常の見られる突然変異体において下方制御される遺伝子の情報や、LUREsの配列情報をもとに、誘引物質候補を探索した。いくつかの有力な候補について遺伝学的解析を行うとともに、semi in vitro受精系を用いた花粉管誘引アッセイを行い、誘引物質の同定を目指しているので紹介したい。