抄録
イネは枝梗と呼ばれる枝に花を形成する。無限花序を作るシロイヌナズナと異なり、枝梗分裂組織 (BM)は有限性を持ち、いくつかの花芽を形成した後に頂端花へ転換する。したがって、BMが花メリステムに転換するタイミングが、イネの花序構造を決める要因となる。我々は、BMアイデンティティが長く維持され、頂端花への転換が遅れる優性変異体を同定した。この変異体は、アラビドプシスUFOのオーソログであるABERRANT PANICLE ORGANIZATION 1(APO1) のプロモーター領域へのトランスポゾン挿入により生じたもので、APO1発現量が上昇していた。また、優性変異体では生殖成長移行後のメリステムの成長が著しく、その大きさは野生型の約1.6倍となる。これは、細胞分裂が活発になり、細胞数が増加することに起因する。機能欠損型のapo1変異体ではBMの花芽への転換が早まることから、APO1はBMアイデンティティを維持し、BMから頂端花への転換を抑制する(Ikeda et al., 2007)。このことから、今回同定した優性変異体はAPO1の機能獲得型であると考えられた。UFOはAPO1とは逆に花芽への分化を促進する。両遺伝子は花芽の分化制御に関わる点は一致するが、その作用は逆である。APO1の機能解析により、植物間で異なる分裂組織のアイデンティティ維持機構への理解が深まることが期待される。