抄録
植物ホルモンの1種であるサイトカイニンはその機能の1つとして、根圏の窒素栄養情報を地上部へ伝える働きをもつことが示唆されてきた。以前シロイヌナズナの研究で我々は、窒素栄養によるサイトカイニン含量増加の原因がサイトカイニン合成酵素isopentenyltransferase (IPT) 遺伝子の窒素栄養による発現誘導であることを明らかにした。窒素栄養は作物の生育、収量を規定する重要な因子であることから、本研究では有用作物の1つであるイネにおける窒素誘導性IPT遺伝子を同定し、その遺伝子の窒素による発現誘導機構を詳細に解析した。
イネにはサイトカイニン合成活性をもつIPT遺伝子が7つ(OsIPT1-5, 7-8)存在する。我々はその遺伝子産物がそれぞれプラスチド、ミトコンドリア、サイトゾルに分かれて局在し、窒素栄養によってプラスチド型のOsIPT4とOsIPT5の遺伝子発現が誘導されることを明らかにした。これらの遺伝子発現誘導は硝酸イオンよりもアンモニウムイオンに強く応答しておこり、グルタミン合成酵素の阻害剤であるMSXで前処理を行うことにより阻害された。一方MSXでの前処理後も窒素源としてグルタミンを与えた場合は遺伝子発現誘導が見られ、OsIPT4, OsIPT5の窒素栄養による遺伝子発現誘導は、グルタミンまたは関連する代謝系によって制御されていることが示唆された。