抄録
イネの窒素利用上の鍵酵素であるNADH-グルタミン酸合成酵素1とNAD-イソクエン酸脱水素酵素の遺伝子発現はグルタミン(Gln)により調節される。このことは、イネにおけるGln情報伝達系の存在を示唆するが、その分子機構は不明である。演者らは、イネのGln情報伝達系のGlnセンサー候補として、核に局在し、かつ、上記のGln応答性遺伝子が発現するNH4+処理後の根や若い葉身の細胞群に蓄積するACTドメインリピートタンパク質9(OsACR9)に着目した。まず、演者らは、RNAi法によりOsACR9発現抑制イネ(OsACR9-KD)を作出した。次に、トランスクリプトーム解析によりGlnとOsACR9依存的に発現調節されるイネ遺伝子候補群を探索した。Gln合成酵素反応の阻害剤のメチオニンスルフォキシミン存在下でのNH4+またはGln処理後の日本晴の根の解析から、388個のGln応答性遺伝子候補を見いだした。また、NH4+処理後のOsACR9-KDの根で、日本晴と比較して、発現量が有意に変化した遺伝子群を選抜した。比較解析の結果、イネ根での59遺伝子のGln応答的発現に、OsACR9が関与する可能性が示唆された。現在、酵母two-hybrid法により、OsACR9と相互作用するイネタンパク質の探索も行っている。以上を基に、イネにおけるOsACR9のGln情報伝達系への関与の可能性を議論する。