抄録
我々はイネにおいて窒素供給による遺伝子発現制御の分子機構を明らかにするために、マイクロアレイを用いて窒素応答に関わる転写制御因子の探索を行ってきた。OsMYB-NR2は硝酸処理に迅速に応答して発現誘導される転写因子である。今回、MYB-NR2の標的遺伝子と生理的役割を明らかにするために、MYB-NR2をUbiquitinプロモーターの制御下で過剰発現している形質転換カルスを作出し、これを用いたマイクロアレイ解析を行った。次に、この結果からいくつかの遺伝子をMYB-NR2の標的遺伝子の候補として選び、これら遺伝子プロモーターが本当にMYB-NR2によって活性化されるかをトウモロコシのプロトプラストを用いたtransactivation実験にて検討した。その結果、トリプトファン合成経路の一部であるトリプトファンシンターゼαサブユニットをコードする遺伝子と、トリプトファン二次代謝の最初の段階を担うトリプトファンデカルボキシラーゼをコードする遺伝子のプロモーターがMYB-NR2によって活性化されることが示された。さらに、MYB-NR2過剰発現イネにおけるトリプトファンおよびその二次代謝産物の一つであるセロトニンの蓄積量を測定し、MYB-NR2の生理機能について議論する。本研究は生研センター「新技術・新分野創出のための基礎研究推進事業」に基づくものである。