抄録
暗所作動型プロトクロロフィリド還元酵素(DPOR)はニトロゲナーゼ類似酵素であり、プロトクロロフィリド(Pchlide)のポルフィリンD環を立体特異的に還元し、クロロフィルの直接の前駆体であるクロロフィリドaを生成する反応を触媒する。この反応では、C17-C18間の二重結合が立体特異的に還元されるが、その分子機構は全く不明であった。DPORの触媒コンポーネントであるNB-蛋白質(BchN-BchBへテロ四量体)の結晶構造を解析した結果、BchBのアスパラギン酸残基(BchB-Asp274)がC17位の下方から、基質Pchlide自身のC17位のプロピオン酸基がC18位の上方から、プロトンをそれぞれPchlideのC17、C18に付加することで立体特異的な還元が行なわれると推察された。本研究では、この仮説を検証するため、BchB-Asp274を始めPchlide還元反応に関わると推定される残基について、部位特異的変異導入により一連の変異型NB-蛋白質を作製し、精製蛋白質を用いて生化学的解析を行なった。また、C17位にプロピオン酸基ではなくアクリル酸基を有するPchlideアナログ、クロロフィルcのDPOR反応への効果を検討した。これらの結果は、立体構造から推察したD環炭素間二重結合の立体特異的な還元機構を支持するものであった。