抄録
我々は、シロイヌナズナの根特異的に遺伝子発現を活性化する独自のアクティベーションタギング法を開発し、根端メリステムのパターン形成に異常を示す優性変異体(UAS-tagged root patterning, urp変異体)を複数単離した。これらのうち、urp4とurp5は互いに相同性をもつ新規な転写因子様タンパク質の過剰発現により、根の細胞分裂が異常に亢進していた。URP4とURP5の機能欠損型変異体には顕著な異常は見られなかったが、同じファミリーに属する別の遺伝子の変異体の芽生えでは、根端分裂組織が高頻度に欠失していた。一方で、胚発生後においては主根の成長以外に異常は見られず、側根や不定根が正常に形成されるために野生型と同様の成長を示した。この変異体の胚発生過程を詳細に観察したところ、発生初期から胚柄の分裂と伸長が抑制されており、根端分裂組織の発生に重要なレンズ型細胞が見られなかった。また胚の上部にも異常が見られ、子葉原器の数や成長が野生型と異なっていた。この遺伝子は胚発生で特異的に発現し、初期胚では胚柄と胚全体で、中期以降は胚柄に発現が限定していた。酵母をもちいた実験により、このタンパク質のアミノ末端側の領域に転写活性化能が見出された。以上の結果は、この新規な転写因子様タンパク質が、胚の軸形成やパターン形成に重要な機能を果たしていることを示唆している。