抄録
花成誘導日長条件下において葉の維管束篩部で発現誘導されるシロイヌナズナFT蛋白質は、「長距離花成シグナル」であることが報告された。しかし、・FTトランスジーンを本来の発現領域を越えて茎頂直下の篩部で発現させたため、篩管を介した葉から茎頂への長距離輸送を十分に示していないこと、・それ自体が長距離輸送されうるGFP蛋白質をタグとして使用したこと、・輸送の時間的な側面が未検討なこと、・FT mRNAの重要性を否定する根拠が乏しいことといった課題も残される。
我々は、異なるアプローチによりこれらの課題を解消した。確実に長距離輸送を検出するため、シロイヌナズナ胚軸接木法を用いて検討を行った。まずこの接木法において、台木・接穂間の篩部連続性の確立時期、篩部の機能的連絡を確認し、内生のFT遺伝子および構成的ないしは一過的に全身で過剰発現するFTトランスジーンによる花成促進効果は接木伝達性を示すことを確認した。我々は、T7タグを付加したFT蛋白質の接木面を越えた長距離輸送を検出し、さらに一過的発現系を利用して、この長距離輸送が少なくとも24-48時間に起こることを示した。一方で、FT遺伝子による長距離伝達性の花成促進効果における、FT mRNAの重要性を積極的に否定するため、同義置換したFT遺伝子を用意し、mRNAの一次配列、二次構造はともに重要でないことを示した。