抄録
高CO2環境で生育した高等植物の葉ではRubisco量が減少することが知られている。しかし、これがRubiscoの生成の抑制と分解の促進のいずれに起因するのかは不明である。そこで本研究では、イネを材料とし、高CO2処理によるRubiscoの生成と分解を15Nトレーサー法を用いて調べた。
CO2処理は第3葉期から開始し、対照区で大気条件(約39Pa)、高CO2区で76 Paとした。第10葉の出葉から老化に至るまで経時的にサンプリングした。Rubisco量は対照区において、葉の展開と共に増加し、完全展開時に最大となり、その後速やかに減少した。高CO2区のRubisco量は葉の一生を通じて対照区よりも低く推移し、光合成速度も同様な変動をした。Rubiscoの生成は対照区において、葉の展開中に活発に行われ、その後急激に低下した。Rubiscoの分解は葉の展開後期に始まり、老化過程を通して活発であった。一方高CO2区では、葉の展開中の生成は対照区よりも抑制されていたが、完全展開後は差がなかった。Rubiscoの分解は、老化初期において対照区に比べ促進されていたものの、分解量の総和は若干少なかった。これらの結果から、イネ葉における高CO2処理によるRubisco量の減少は、主として葉の展開時のRubisco生成の抑制と老化初期の若干の分解促進の結果であった。