抄録
光走性などにより重力に逆らって指向性運動を行う細胞の高密度集団では,生物対流が見られることが古くから知られているが,個々の細胞の運動動態については知られていない。生物対流は生物が示す非平衡ダイナミクスの一つであるが,個々の細胞を直接観察できる点で,代謝など細胞内のダイナミクスよりも解析しやすく,生物現象一般のモデルとなることが期待される。昨年の年会では,培地密度を高くすることによって倒立対流ができることを示した。また,生物対流の確立にいたる過程には,光のない条件における等方的運動から,光照射下における光走性運動の開始,集積した細胞層における細胞間反発による「小噴火」,細胞層不均一化による細胞流の開始などの段階があることを示した。本研究では,細胞集団中における特定細胞の軌跡を観察する方法を開発し,これにより個々の細胞運動動態の解析を可能にしたので,細胞集団の運動動態特性の時間的発展について報告する。