抄録
寒冷地に生育する樹木の木部柔細胞は深過冷却によって氷点下温度に適応している。このような木部柔細胞では、季節的な低温馴化によって過冷却能力が向上することで冬季の厳しい氷点下温度に対する抵抗性(凍結抵抗性)が著しく高まる。これまでの研究により、木部柔細胞の深過冷却機構では細胞壁構造や細胞内に蓄積する糖類、氷核形成阻害物質などが関与することが示唆されているが、主たる細胞成分の一つである可溶性蛋白質が過冷却能に対してどのような役割を果たしているのかに関する知見は少ない。そこで本研究では、北方樹木の木部柔細胞の過冷却能の変動によく対応して変動する蛋白質を特定することを目的とした。野外に生育するカラマツ(Larix kaempferi)の2ないし5年生の枝を用い、季節的な低温馴化による過冷却能の上昇ならびに人為的な脱馴化処理による過冷却能の減少の双方に対応して、蓄積量が増減した可溶性蛋白質を二次元電気泳動法で検出した。そして、変動した16個の候補蛋白質をトリプシン消化後、LC-MALDI MS/MS解析に供試してde novo sequencingした。予測されたアミノ酸配列をもとにデータベースを検索した結果、機能未知な樹木由来の蛋白質と類似したものがいくつか見いだされた。現在、引き続きこれらの蛋白質の同定を試みている。