抄録
シロイヌナズナT87培養細胞はアブシジン酸(ABA)処理により凍結耐性が増大する(Sasakiら 2008)。この凍結耐性の増大は、細胞分裂が盛んな時期(生長曲線では誘導期に相当)でのみ起こり、細胞肥大の時期(対数増殖期)には見られない。しかし、本培養細胞の凍結耐性増大に関わる要因については未だ不明な点が多い。本研究では、ストレス応答性タンパク質の1つであるデハイドリンに着目し、本培養細胞におけるABA誘導性凍結耐性の増大との関係を解析した。シロイヌナズナゲノムには、デハイドリン遺伝子が10個存在する。本培養細胞におけるデハイドリンタンパク質の発現を調べるため、全てのデハイドリンが持つK-segmentを認識する抗体を用いてWestern blotを行った。その結果、一次元電気泳動においては8本のバンド、酸性領域の二次元電気泳動においては4個のスポットを確認した。また、特異的プライマーを用いて6個のデハイドリン遺伝子の発現を解析した結果、ABAに応答して3個の発現が増加した。タンパク質発現と遺伝子発現解析の結果から、誘導期細胞でのみABAに応答して2個のデハイドリンの蓄積量が増大することを明らかにした。この結果は、これらの誘導期特異的ABA誘導性デハイドリンが凍結耐性増大に関与していることを示唆している。現在、質量分析によるそれらのデハイドリンの同定を行っている。