抄録
シロイヌナズナ液胞膜亜鉛輸送体AtMTP1は亜鉛とプロトンとの交換輸送により細胞質亜鉛を液胞へ能動輸送するZn2+/H+ exchangerである。AtMTP1遺伝子欠損株mtp1は野生株と比較して亜鉛感受性であることから亜鉛耐性に重要な役割を果たしていると推測される。本研究では、mtp1とWTを比較することにより、亜鉛による成長障害のメカニズム、亜鉛恒常性機構におけるAtMTP1の生理的な役割を解析した。
WTは0.5 mM亜鉛存在下でも正常に成長するが、mtp1は根の伸長は著しく阻害される。亜鉛ストレスを除くと根の伸長は再開することから細胞死はしていない。形態観察より細胞分裂と伸長が抑制されていることが確認された。蛍光プローブを用いた解析はmtp1の根端で活性酸素が蓄積していることを示した。またmtp1では活性酸素除去酵素CSD1, CSD2遺伝子の発現上昇と、細胞膜型亜鉛輸送体ZIP1の転写量減少などがみられ、根の伸長障害は過剰亜鉛により発生した活性酸素によるものであると、強く示唆された。さらにICP-AES分析より明らかになった過剰亜鉛によるイオンバランスへの影響、電子顕微鏡観察と顕微元素分析より示された亜鉛濃度上昇時に特徴的にみられる細胞内形態について報告する。