抄録
植物のミトコンドリア呼吸鎖にはATP生産と共役しないalternative oxidase (AOX)を介するシアン耐性経路がある。この経路はエネルギー的に一見無駄であるが、ストレス下における活性酸素生成の抑制や炭素・窒素バランス(C/N比)の調節に働く可能性が指摘されている。本研究では、低窒素下におけるAOXのC/N比調節の可能性について調べるために、シロイヌナズナ野生株とaox1a欠損株に短期・長期の低窒素処理を行った。1)短期間の低窒素処理によって、野生株のシアン耐性呼吸速度、AOX1a発現は大きく増加した。aox1a欠損株の呼吸速度は野生株と差がなく、成長にも大きな差はなかった。低窒素処理によって解糖系やカルビン回路の中間代謝産物が増加していた。aox1a欠損株では野生株よりも、その増加が抑えられていた。2)長期間の低窒素処理では、aox1a欠損株の成長が野生株より良かった。以上の結果は、aox1a欠損株では中間代謝産物の蓄積が抑えられ、長期的にその差が成長に表れたためではないかと考えられる。C/N比には両株間で差がなかったことから、AOXが低窒素下でのC/N比調節に関与しているとは考えにくい。培養細胞を用いた同様の研究(Sieger et al. 2005)では、aox1a欠損株でC/N比が上昇していた。培養細胞と植物体では異なる制御が行われていると考えられる。